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最高裁判所大法廷 昭和23年(れ)446号 判決 1948年7月29日

主文

本件上告を棄却する。

理由

辯護人三宅正太郎の再上告趣意書第六點について。

論旨は、原判決には、憲法によって擁護される基本的人權を侵害した違法がある、と主張しているけれども、所論の内容は、被告人の所爲を詐欺罪に問擬したことに對する非難である。從ってそれは、原判決が事実を誤認しているか又は法律の適用を誤っているという主張に歸し、実質に於ては憲法違反を理由とするものではないから、これ亦再上告の適法な理由とはなり得ない。(その他の判決理由は省略する。)

よって刑事訴訟法第四四六條に則り主文のとおり判決する。

以上は裁判官齋藤悠輔の補足意見を除く外全員一致の意見である。

裁判官齋藤悠輔の補足意見は次のとおりである。

刑訴應急措置法第一七條は、憲法第八一條に由來し、違憲審査を求める特別な上告の申立を認めた規定である。それ故、この規定による、いわゆる再上告は、原上告判決に同規定所定の憲法適否に關する判斷が存在し、その判斷が不當であることを理由とするときに限り、これをすることができるのである。そのことは何人も同規定を一讀しただけで、直ちに、判ることである。元來上告は、判決に對し法令違反を理由とする不服方法である。從って、その申立を許容するには、先ず、原判決の存在を前提とする。そして、判決は、事件に對する裁判所の判斷に外ならないから、原上告判決に憲法適否の判斷が存在しないときは、特に、再上告を許すべき不服申立の目的物を缺くことになる。また、その判斷の不當を理由としない限り、特に三級審又は四級審としての再上告を認める必要がない。かかる場合には、すでに、再審や非常上告の道が開かれているからである。されば、原上告判決に憲法適否の判斷が存在すること並びにその判斷の不當であることを再上告の理由とすることは、共に再上告の厳格な適法要件であると言わなければならぬ。然るに、本件においては、原上告判決に何等憲法適否の判斷もなく、また、本件再上告理由も單なる普通の上告理由であって憲法適否を理由としていない。いわば「的」もなく、「矢」もないことになる。それでは到底違憲問題に當る譯がない。だから本件再上告は、目的物の點から見ても、攻撃方法の點から見ても、共に適法でない。多數意見は、法律の明文を無視し、故意に最も大切な「的」を外ずした一面觀に過ぎない。意見を補足する所以である。

(裁判長裁判官 塚崎直義 裁判官 長谷川太一郎 裁判官 沢田竹治郎 裁判官 霜山精一 裁判官 井上登 裁判官 栗山茂 裁判官 真野毅 裁判官 小谷勝重 裁判官 島 保 裁判官 齋藤悠輔 裁判官 藤田八郎 裁判官 岩松三郎 裁判官 河村又介)

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